人から人へ、親から子へと長い間語り伝えられてきた伝説、それは生の郷土の歴史であり、かけがえのない文化遺産といっても過信ではありません。
伝説には多少の脚色があっても、郷土に根ざした先人たちのすばらしい英知や心情には現代に生きる私たちの心をとらえてやまない、不思議な力が秘められているように思われます。
弘法大師が、二荒山への道すがら、川辺の里(いまの古河市)に泊まった。その夜、夢に弁天さまが現れて、「われは百々塚権現のあたりに住む白蛇である。そのほとりに、弁財天をまつるがよい。どんな日照りにも豊かな水をたたえ、あまたの田をうるおし、多くの民を富ますであろう。誓いのしるしに、池のみぎわに片葉のヨシを茂らしておこう。それを目当てに、われを求めよ。」と言って、姿を消した。
大師は、あくる日、百々塚の里を訪ねた。片葉のヨシがむらがり生えている広い池があった。大師が錫杖の石突で池水をかきまわすと、水は泡だって大きく渦巻き、渦とともに白蛇がうねうねと動くのが見えた。昨夜の夢は、正夢だった。大師は、村人にすすめて、そこに弁才天をまつることにした。
この日、大師は百々塚権現(いまの愛宕さま)の社にこもって、五穀豊穣を祈願した。そのとき、次のような歌をよんだ、と伝えられている。
みたらしのなさけにもどれ人ごころ
神のうけひく民ぞ栄えん