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小山の伝説

小山の伝説・小山百景は、小山市教育委員会文化振興課・小山の昔の写真は、栃木県メディアボランティアに帰属します。無断転載、再配信等は行わないで下さい。

人から人へ、親から子へと長い間語り伝えられてきた伝説、それは生の郷土の歴史であり、かけがえのない文化遺産といっても過信ではありません。
伝説には多少の脚色があっても、郷土に根ざした先人たちのすばらしい英知や心情には現代に生きる私たちの心をとらえてやまない、不思議な力が秘められているように思われます。

小山の伝説

お知らせ三本エノキ(小山)

 弘法大師が諸国を行脚したとき、小山を通った。昼になったので、川を見はらす高台のエノキの木陰に腰を下ろして、弁当を食べた。
 やがて、わらじのひもをしめ直して立ち上がった。その手には箸を持っていた。歩きながら、箸を筆の代わりにして、空気の中に字を書いた。大師は、たいへん字が上手だった。こうして字を書くことが、長旅の疲れを忘れさせるのだった。
 十字ばかり書いて、箸の一本を道ばたに差した。二本よりも、一本のほうが筆らしかった。しかし二十字ほどで、残りの箸も前のようにくさむらに差した。川岸に近づき、そこに渡し舟が待っていたからだった。
 二本の箸は根づいて、二本のエノキになった。すくすくと伸びて、大師憩いのエノキと同じほどになった。人々は「三本エノキ」と名づけた。
 三本エノキは、すでに二本が姿を消して、ただ一本残っている。そのまわりを、息をつかずに三べん回ると、幹のうしろから白い蛇が出てくる、と言い伝えられた。子ども好きのおじさんは、子どもたちを集め、「蛇が出る、蛇が出る」と合唱しながら、輪になって幹を回り、三回りめになると、「今度はきっと出るぞ。」とおどかしておいて、「蛇が出る、蛇が出る、それうそじゃ。」とやって愉快そうに子どもたちを見回したものだそうである。