人から人へ、親から子へと長い間語り伝えられてきた伝説、それは生の郷土の歴史であり、かけがえのない文化遺産といっても過信ではありません。
伝説には多少の脚色があっても、郷土に根ざした先人たちのすばらしい英知や心情には現代に生きる私たちの心をとらえてやまない、不思議な力が秘められているように思われます。
小山の城が落ちたとき、城主の姫君は世をはかなんで、城中の井戸に身をなげて死んだ。あとで自分を探し求める人々のことを考えて、目じるしに、イチョウの小枝をさしておいた。
姫の乳母だった老女は、井戸のそこの姫君を発見して、嘆き悲しんでだ。どんなに泣きさけんでも、美しい姿はもどらない。涙でかれたとき、老女は身をおどらせて姫と運命をともにした。
イチョウの小枝は根づいてどんどん伸びたが、あわれな死にようをしたお姫さまの霊がやどって、ついに実をつけることがないという。また、老女のおはぐろがうつったのだという黒い小石が、そばの崖から出る。