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小山の伝説

小山の伝説・小山百景は、小山市教育委員会文化振興課・小山の昔の写真は、栃木県メディアボランティアに帰属します。無断転載、再配信等は行わないで下さい。

人から人へ、親から子へと長い間語り伝えられてきた伝説、それは生の郷土の歴史であり、かけがえのない文化遺産といっても過信ではありません。
伝説には多少の脚色があっても、郷土に根ざした先人たちのすばらしい英知や心情には現代に生きる私たちの心をとらえてやまない、不思議な力が秘められているように思われます。

小山の伝説

お知らせ夜泣き石(小山

 小山の城はとうとう攻め落とされた。結城の城主が、接収にやってきた。庭園の石組みに、みごとな七つの石があった。
「これはすばらしい。あの七つの石を、結城の城へ運ばせよ。
命令がおりると、没落した小山氏の旧家臣が招集されて、遠い道のりを運ばせられた。彼らは歯をくいしばり、油汗を流して、みじめな労働を耐えしのんだ。坂道にかかると、苦しさうどめく者もあった。ひたいの汗が地面にしたたり、目尻から垂れるのは涙のようだ。彼らの前後・左右には、勝ち誇った結城氏の家臣たちの鞭があったのである。
ようやく結城の城中に運びこみ、城主のさしずどおりに据えられた。
「庭がひきしまって、いちだんとよくなったのう。」
お大名は上きげんだが、小山の家臣たちは去り難い思いだった。いく度も、無心の石を撫でさすっているものもあった。自分たちのお城の石がぶんどられたのだから、はらわたが煮えくり返るような気持ちなのであろう。
その夜から、不思議なことが起こった。夜なかになると、庭先からあわれげな泣き声が聞こえる。毎夜のことだったから、城中はそのうわさでもちきりになった。
ある夜へんな夢を見て目がさめた城主が、とつおいつ物思いをしていたとき、庭先からすすり泣くような声がした。ひとりではなく、ふたり、三人・・・・・・
「だれか来いっ。」
大声で近侍を呼んだ。若い侍がかけつける。
「あれはなんだ、あの泣き声は?」
家来は、刀を置いて、近ごろのうわさについて語った。そして、言うのだった。
「泣いているのは、庭の石でございます。石が泣くなどとそんなばかげたことはないと思い、こよいのとのいをさいわいに、さきほど庭にしのび出しまして、私がこの耳で聞きました。たしかに石どもが泣いているのでございます。
城主は、半信半疑で侍臣の話を聞いていた。目をつむると、石を運んだ小山の家臣たちのうらめしそうな顔、顔、顔・・・・・が、まざまざと目にうかんだ。石が泣かなくとも、彼らが泣いていることに間違いはない。
あくる日、結城の家臣たちが七つの石を運んできて、もとの場所にもどした。石たちは、その夜から泣くのをやめた。
なつかしい土地へ帰って、泣く必要がなくなったのであろう。